ダイレクトメッセージ

作:出汁殻 ニボシ

 まずはお礼を言いたい。このDMを開いてくれて、本当にありがとう!

 このようなメッセージを赤の他人である君にいきなり送りつけることは、まあ褒められた行為ではないものだということは、我々も重々承知である。

 しかしこのメッセージを受信、そして開いていただいたことによって、我々の地球は確実に救われたのだ。

 始まりは一枚の投稿だった。そう、先ほど君が送信した、まさにそのトピックなのだ。

 といっても、それ自体は大したものじゃない。文章もなにかすごいことが書いてあるわけじゃなし。はばからずに言えば、せいぜいが知り合い二、三人の目に触れた後、これといった反応もなくタイムラインから押し流されてゆく……時間帯によってはそもそもそんな機会すらないかもしれない。まあくだらない投稿といっても差し支えないだろう。

 問題は中身ではない。これが我々にとって、未来から投稿されたトピックであったということなのだ。

 思えば、あれだけ中身のない投稿を見たのは大変に久しぶりだった。先の開戦からこっち、火星方面から流しこまれた四千三百万の機雷によって、宇宙への道が完全に封鎖されているなんて状況じゃあ、誰だって悲観的にもなるというものだ。

 十数年前には地球からもぼんぼこロケットが飛び立っていたというが、今では探査衛星ひとつまともに打ち上げることも出来ない。機雷の海に混ぜ込んであるらしいジャミング衛星のために惑星間の通信は絶望的。さらには太陽光までもがそれら衛星群の妨害によって遮られて奇怪な変調を起こしているせいで、夜明けから日暮れまで空は常に赤褐色。子供たちが青い空と青い海を知らないまま義務教育を終える段階まで来ているのだから、これを地獄と呼ぶものがいるのも頷ける話だ。

 かくいう我々も、この悍ましき戦況をどうにかして変えようと不断の努力を続けてきた。

 星海にばらまかれた機雷をどうにかして無力化せねば未来はない。そのためにあらゆる手段が講じられた。だが、排障レーザーによる掃海は宇宙空間に設備を持ってくることができない以上、精度・威力共に大きく劣る地上からの照射に頼るしかなく、対象物の小ささ・数と範囲の膨大さから、何度試みても大した成果を上げることは出来ないでいたし、機雷そのものの解除コードを割り出す作業は、それを受け付ける通信帯域×解除のためのキーワード×必要とされる電波、あるいはレーザーの種類という、文字通り天文学的数値として立ちふさがる膨大な選択肢群の一割弱を、十数年かけてようやく検証し終えたという有様だ。

 つまるところ、展望は絶望的だった。

 そんな折だ。君のまったくもって呑気な投稿が研究所に飛び込んできたのは。

 研究所のアンテナに引っかかったこの投稿を、我々は当初、妙なタイミングで跳ね返ってきた過去からの通信であると考えた。開戦当時、ジャミングの影響を確かめる実験の最中、数ヶ月前に送信された電波が地雷原の混線帯域によってかき回された後、見るも無残なデータの残骸となって拾われることが幾度かあった為だ。

 しかし君の投稿には奇妙な点が二つあった。写真や文章が読み取れるなど、過去に発射・反射されたデータとしてはあまりにも破損が少なかったことがひとつ。

 そしてもう一つは、送信日らしきデータが未来を指していたことだ。

 こうして詳細な解析が開始された。Exif情報こそ残っていないものの、ありがたいことに大部分のデータは未編集のままだったので、アップロードされた画像から場所を特定するのは容易だった。雑草が写りこんでいるのもヨシ。これくらい特徴がハッキリしていれば、植物用の画像検索にかけて種別を割り出し、その植生から更に撮影場所を絞りこむことができる。

 Whereが分かればあとは処理能力の問題。該当地域を調べ、写真の光源とそのスペクトルから惑星系における恒星の位置情報を突き止めれば、公転周期との重ね合わせで大まかな撮影時期の見当はつく。写っているのが馴染み深い太陽そのものであれば、日数単位で撮影日を算出することすらできた。

 最終的な結果が出る頃になると、君の投稿は既に研究所中の注目を集めていたよ。この奇妙な写真と文章は、確実に数週間分未来の地球から送信されている!

 これだけでも十分に興味深い事象ではあったが、我々を殊更に強く引き付けたのは、写真に映し出された光景そのものだった。そこには失われたはずの平穏──穏やかな陽光と、それを暖かく発散し続ける青い空が息づいていたのだから。

 全ての研究が一時中断され、投稿の解析に研究所の全精力が傾けられると、さらに複数の事実が判明した。君の愚にも付かない投稿がΩ42、つまりこちらを既定世界とした場合、約13フリート分離れた平行世界からのものであり、写真の中の陽光がジャミング以前の青色をしていることから機雷による封鎖が行われていないこと、なによりその平和ボケした内容から、君たちの世界は我々のそれと比較して、はるかに平穏であるということなどがそれだ。

 これらの事実を解明した我々は、長い協議の末にある一つの選択を行った。コラテラル・ダメージ──地球を救うという大事の前に、多少の犠牲は致し方ない。空を埋め尽くす四千三百万の悪意は、どうあがいても我々だけでは対処しきれない。

 ならばせめてその半分だけでも平行世界の地球の手を……より正確にはその空を借りて処理しよう、と。

 君がこのメッセージを受け取ったことによって、我々と君のいる地球との間に”道”が開通した。技術的な説明は面倒だし、なにより君にはまず理解できないだろうから(もしも君が非線形時空間における量子テレポートとコリオリ力の関係、および惑星間通信バイパスの中で光子が見せるハシブトガラスにも似た振る舞いについて熟知しているのなら話は別だが)その詳細は省かせていただく。

 ともあれ、開通した”道”に向けて機雷を流しこむ準備は既に完了している。

 残念なことに、こちらからのメッセージ送信は一度しか行えない。これは純粋に時空間的な問題で、やはり説明は控えるが、要は「君の投稿が本来送信されるはずのタイミングでのみ、こちらからもデータを送信することが可能」と考えてもらえば問題ない。

 そして”道”を無事に開通させるためには、こちらから送信したデータを一定の時間だけ保持し続けてもらう必要があった。例えるならこれは糸電話のようなもので、双方の間に曳かれた糸がピンと張っていなければ 音声を伝えることができないのと同じだ。

 今までの文章は、なにも君にこちらの事情を理解してもらおうというものではなく、単に君が”道”との接続を切断しないようにするための、いわば時間稼ぎに過ぎない。

 “道”が途中で切断されたり、そもそも送信がなされず接続そのものが行われなかったら、研究所上空に殺到した機雷は破壊的な爆発の連鎖を引き起こし、今度こそ我々はおしまいだ。

 だからこそ、このメッセージを必要な秒数だけ開き続けてもらえるよう、君の境界領域下にある種の心理的効果を引き起こす、いわゆるサブリミナル効果を用いた心理誘導も行った。

 もちろん、流入した機雷によって君たちの地球は一時的に混乱状態へと陥るだろう。場合によっては大規模な戦争と、それに伴う人口の大幅な減少によって数世紀ばかりはいわゆる暗黒時代が続くかもしれない。実際、我々も同じような時期を経験してきたのだ。

 しかしながら、君たちのところへ送られる機雷は、今現在こちらの地球を覆っているそれの僅か1/2に過ぎない。過ぎないというにはやや重たい量かもしれないが、結局のところ我々は初期の機雷投下時に生じた諸問題を乗り越えることができたのだし、たぶん君たちにも同じことができるだろう。なんといっても我々と君たちとは、平行線上の同じ地球人であり、同じ人間なのだから!

 また、仮に対策が取れなかったとしても……その場合も特に気にすることはない。何らかの要因で機雷が作動した場合はもちろん地上を徹底的に破壊しつくすだろうが、爆発から壊滅までにかかる時間は、どう長く見積もっても0.043秒以上になることはない。これは通常、人間がその死を認識するよりも早く生命活動を終えるのに十分な時間だから、君たちは痛みや恐怖を感じることもなく安らかに(あるとすればだが)天国やら地獄やら、好きなところに旅立つことができるはずだ。

 あるいは君が我々の初期想定よりいくらか賢明で、このメッセージを飛ばし飛ばし読みながら……場合によっては冒頭を読み終えた後、即座に下までスクロールして、いわばオチにあたる部分を先に読もうとしているかもしれない。

しかしながら、その場合でも機雷の流入を防ぐことは出来ないだろう。こちらに必要な時間は最大でも2.9175秒であり、それだけあれば”道”の開通はもちろん、機雷の転送も完了しているのだから。

 結局のところ、冒頭の文章を読み始めた時点で既に命運は決していたのだ。

 最後にもう一度お礼を。このDMを開いてくれて本当にありがとう!

 願わくば我々の世界と同様に、君たちの未来にも希望があらんことを!

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